研究紹介

私たちは、300GHzというとても高い周波数(サブテラヘルツ帯)を使ったアンテナの研究を行っています。このような高い周波数では、電波が伝わるときにエネルギーが失われやすいため、「できるだけ損失を少なくすること」がとても重要になります。

そこで私たちは、遠くまで電波を強く届けられる「レンズアンテナ」や、電子回路と一体にできる「平面アンテナ」、さらに複数の方向に電波を出せる「マルチビームアンテナ」や、出す方向を変化できる「フェーズドアレーアンテナ」などを開発しています。また、これらのアンテナに電波を効率よく送るための回路もあわせて開発しています。

この研究によって、より速く大容量のデータを送る無線通信や、細かいものまで見分けられる高精度なセンシングが可能になります。将来的には、自動車の自動運転や、離れた場所から手術を行う遠隔医療などの実現につながると期待されています。

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研究テーマ

レンズアンテナ

レンズアンテナは、とても高い周波数の電波(テラヘルツ波)を効率よく集めたり、遠くへ飛ばしたりできるアンテナです。一般に、アンテナで強い電波を遠くまで届けようとすると(高利得にしようとすると)、途中でエネルギーが失われやすく(給電損失が大きくなりやすく)なるという問題があります。しかし、光の分野でも用いられているレンズアンテナは、高い利得を持ちながらも損失を小さく抑えられるという特徴があります。

一方で、レンズの形状にも課題があります。アンテナを薄くコンパクトにしようとすると、必要な焦点距離とレンズの厚さによって、全体の高さ(姿勢)を低くすることが難しくなります。この「低姿勢化」は設計上の大きなポイントです。

この問題を解決するためには、電波をたくさん屈折させる性質を持つ「比誘電率」が高い材料を使う必要があります。しかし、一般的に比誘電率が高い材料は、「誘電正接」と呼ばれる損失を表す量も大きくなりやすく、電波のエネルギーが熱として失われやすくなってしまいます。つまり、性能が下がる原因になります。

そのため、低くてコンパクトな形状で、しかも高い性能を持つテラヘルツレンズアンテナを実現するには、「比誘電率が高いのに、誘電正接は小さい」という、相反する、損失の少ない特別な材料がとても重要になります。こうした材料の開発が、今後の技術のカギとなっています。


マルチビーム平面アンテナ

マルチビーム平面アンテナは、これからの超高速通信で注目されている「サブテラヘルツ帯(とても高い周波数の電波)」で活躍が期待されている技術です。少し難しそうに聞こえますが、ポイントを押さえればイメージできます。

まず、このアンテナの大きな特徴は「平面で薄い」ことです。レンズアンテナやパラボラアンテナなどの、従来のアンテナは立体的で場所を取りがちでしたが、マルチビーム平面アンテナはとても薄く、スマートフォンなどの携帯端末の中にも組み込みやすいという利点があります。しかも「マルチビーム」という名前の通り、複数の方向に電波を同時に飛ばせるため、効率よく通信できます。

一方で、サブテラヘルツ帯で平面アンテナを実現するには課題もあります。この周波数では、アンテナや回路を作る「プリント基板(電子回路の土台)」の中で電波のエネルギーが失われやすい、つまり「損失が大きい」という問題があります。せっかく強い電波を使っても、途中で弱くなってしまうのです。

そこで重要になるのが、基板の材料です。電波のエネルギーをあまり失わないためには、「誘電正接(ゆうでんせいせつ)」という値が小さい材料が求められます。これは簡単に言うと、「電波を無駄に吸収しにくい材料」です。さらに、回路をコンパクトにまとめるためには、基板を何層にも重ねる「多層化」ができることも大切です。つまり、「低損失で、しかもたくさんの回路を詰め込める材料」が必要になります。

加えて、最近の技術では、とても細かい金属の配線パターンを作ることができるようになってきました。この微細加工技術によって、限られた小さな面積の中に、アンテナや回路など多くの機能をぎゅっと集めることが可能になります。これにより、小型で高性能な通信機器が実現できるのです。

まとめると、マルチビーム平面アンテナは「薄くて小さいのに高性能」という強みがあり、サブテラヘルツ通信にぴったりの技術です。ただし、その性能を十分に引き出すためには、「損失の少ない材料」や「精密な加工技術」といった周辺技術もとても重要になります。これらが組み合わさることで、将来の高速通信が支えられていくのです。


フェーズドアレー

フェーズドアレーは、複数のアンテナ(アレーアンテナ)を並べて、それぞれの電波のタイミング(位相)を少しずつずらすことで、特定の方向に電波を強く送ったり、受けたりできる技術です。この仕組みは、レーダーなどの軍事分野や、自動運転車の周囲検知にも使われてきました。

この技術をサブテラヘルツと呼ばれるとても高い周波数帯に応用すると、いくつか特徴的なポイントが出てきます。

まず、サブテラヘルツでは非常に高い周波数の電波を扱うため、1つの強力な送信機で大きな電力を出すことが難しくなります。そこで、たくさんの小さなアンテナそれぞれに送信機をつなぎ、空間で電波を重ね合わせて、全体として強い電波を作る方法が使われます。いわば、「小さな力をたくさん集めて大きな力にする」イメージです。

一方で、周波数が高くなると波長がとても短くなります。すると、送信機や回路のサイズが波長よりも大きくなってしまい、アンテナの並び方によっては「グレーティングローブ」と呼ばれる、意図しない方向にも電波が強く出てしまう問題が起こります。これは、見たい方向以外にも“余計なビーム”ができてしまうような現象です。

そのため、サブテラヘルツでフェーズドアレーをうまく使うには、回路をできるだけ小さくする工夫や、すべてのアンテナに送信機をつなぐのではなく、一部のアンテナに送信機を接続するだけでも全部のアンテナが機能するような、効率的なアンテナ配置や回路とつなげる構造を考えることが重要になります。

このように、サブテラヘルツでのフェーズドアレーは、「多数の小さな送信機を協力させること」と「不要な電波の広がりを抑える工夫」がポイントとなる技術です。


異種伝送線路変換回路

サブテラヘルツ(とても高い周波数の電波)を扱う回路では、部品どうしのつなぎ方がとても重要になります。たとえば、アンテナと高周波回路、あるいはアンテナと測定装置をつなぐとき、それぞれの中で使われている「伝送線路(電波が通る道)」の形や性質が異なることがあります。

このとき問題になるのが、伝送線路の違いです。伝送線路が異なると、その中を進む電波の広がり方(電磁界の分布)が変わります。もし何も工夫せずにそのままつないでしまうと、つなぎ目で電波がうまく進めず、多くが反射して戻ったり、外にもれたりしてしまいます。その結果、大きなエネルギーの損失が発生してしまいます。

この問題を解決するために、電波の状態を「なめらかに変える」方法が考えられます。つまり、片方の伝送線路からもう片方へ、少しずつ性質を変えていくやり方です。ただし、この方法は構造が長くなりがちで、サブテラヘルツのような高い周波数では、長いほど損失も増えてしまうという欠点があります。

そこで使われるのが「異種伝送線路変換回路」です。これは、つなぎ目の部分に「共振構造」と呼ばれる特別な仕組みを入れる方法です。この共振構造と、両側の伝送線路がうまく結びつく(強く結合する)ように設計することで、電波を効率よく受け渡しできます。しかも、この方法なら構造を小さくでき、損失も少なく抑えられます。

このように、サブテラヘルツ帯では、電波のロスを減らしながらコンパクトに接続するために、異種伝送線路変換回路がとても重要な役割を果たしています。


レーダ信号処理

レーダ (RADAR) とは RAdio Detection And Ranging の頭文字をとった略語(アクロニム)であり,電波を使って,遠くにある目標物の位置(距離と方向)や動き(速度)を知るための装置です.

レーダにはアンテナが搭載されています.アンテナから送信した電波が目標物から反射する性質を利用し,反射した電波を受信・分析することで目標物の位置や動きを知ることができます.

レーダを活用することで,宇宙空間に存在する電波の位置というマクロな情報から,呼吸や心拍で生じる皮膚表面の微小な動きというミクロな情報まで分析することが可能です.

本研究室では,受信した電波を適切に分析するための計算方法であるレーダ信号処理について研究をしています.また,フェーズドアレーアンテナのノウハウを活用したアレー信号処理についても研究を進めています.

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